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華の剣士 2 四獣篇

第18章 目覚めのとき


「これより孟の城へと進軍する!ヒチョル前王を弑逆したリョンヘ王子に裁きの鉄槌を!!」

男は伝令役の兵士に、そう伝えさせた。体は軽い。先ほどの火矢による攻撃で、操っていた大半の歩兵は命を落としたからだ。そのため、男は気分が高揚していた。
孟の城へと進み始めると、先ほど火矢を放った山が小気味よいほど燃えていた。流石に向こう側まで火が届くかは疑問だが、山にいたリョンヘ側の兵士に多少は被害を与えたであろうし、こうなると孟の地で籠城することとなるだろう。そうすれば一気に叩ける。例え青龍がいようとこの兵力の差では数日も保つまい。

(進め、進め!このままこの国を、この世の全てを手に入れる…!!)

遙か昔、この国の初代王によって潰えた夢が今まさに、叶おうとしている。男は腹の底から笑いたくなった。

その時、男の先を行く歩兵や騎馬隊のいる辺りから、異変を知らせる笛の音が鳴った。しばらくして伝令役が男の元まで下がってくる。

「何事だ。」

伝令役は汗をかいており、ひどく緊張した面持ちだった。

「は。山の方から奇妙な鳥のようなものが近づいております。」

男は眉をひそめる。

(そのようなことで笛を鳴らしたのか?どうせ火事に驚いた鷹なんぞが逃げてきたのではないのか。)

「ただの鳥だろう。気にするな。」

そう吐き捨てるように男が返した時、再び前方から兵士たちの叫び声が聞こえた。離れた所にいる男からでも見えるほど大きな火の手が、行く手を阻んでいる。しかし枯れ草すらないこの荒地で、なぜ火の手が上がるのか、さっぱりわからない。その上、火事が起こったのは山だ。ここまで火が届くはずもない。

(そんなまさか…!!)

考えられるとしたら一つしかない。男は何百年ぶりに鳥肌を立てた。

(いや、そんなまさか。私がこの手で殺してから、姿を見たものはいないというのに…!!いつの間に生まれ変わったのだ…!!)

頭上で大きな羽音が聞こえる。見上げると大きく、美しく、朱い鳥だった。くちばしの隙間から炎をこぼしながら、こちらに向かって勢いよく突っ込んでくる。

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