• テキストサイズ

華の剣士 2 四獣篇

第12章 足枷


(どうせどこに行っても、またみんなに嫌われる…。どこも同じ…)


あてもなく歩いていると、孤児院の裏にたどり着いた。もう子供達は就寝の時間だからか、辺りはひっそりしている。昼間の騒ぎが嘘のようだった。


(あぁ…。帰りてぇ…!)


ソリャは今まで過ごしてきた建物を見て、胸が引き裂かれるように痛んだ。


その時、窓から灯りが見えた。そしてその灯りは誰かが持っているらしく、動いている。夜には時折、院長が夜更かしをしている子供がいないか、見回るのだ。


実の親のように慕い、異形の自分を受け入れてくれた院長には、最後に一目会って、お礼と謝罪をしたい。ソリャはそう思った。名残惜しいのと、本当は院長は自身のことを理解してくれて、ここにいてもいいと言ってはくれないかと、淡い期待を抱いたのだ。


(この時間なら、他のやつにも会わないし…。大丈夫だ!)


ソリャはこっそり二階の窓から孤児院に入った。2階は誰も入らないと思って、皆が閂(かんぬき)をかけずにいるのを知っていたからだ。ソリャには難なく飛び上がれる高さだったので、功を奏した。


音もたてずに歩き、先程院長がいた辺りに向かう。そうすると、廊下を一人で歩く院長の背中が見えた。ソリャは足を速めて、院長に近づく。ソリャは叱られはするだろうが、ソリャの身を案じてくれているだろうと思っていたので、声をかけるのに、少しどきどきしていた。


「…、い、院長」


ソリャは掠れながらもそう、そっと呼び掛けた。すると、院長は素早く振り返り、驚愕の色を示した。


「な、何でお前…」


ソリャはその声を聴いて、自分がとんでもない思い違いをしていたことを悟った。院長は驚いたのではない。恐怖に顔をひきつらせているのだった。


ソリャは足元が崩れていくような感覚に襲われた。自分は一番信じていた人を、失ったのだ。

今まで体験したことの無いぐらいの、気まずい沈黙が二人を包む。冷えた空気が心の臓を犯し、自身が石になったかのようだ。

「か、帰ってきたのか。な、何も無かったか」


そう院長は優しく声をかけたが、手は震え、持っている灯りが激しく揺れている。ソリャはこれ以上、取り繕った院長を見たくなかった。


/ 210ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp