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華の剣士 2 四獣篇

第10章 形単影隻


一方、ハヨン達は白虎の幼い頃を語る老人の話に聴き入っていた。随分と時間が経っていたらしく、少しだけ肌寒くなっていた。

「ある日わしはここを留守にしていた。その時を狙ったんじゃろうな。白虎が生意気だからと気に食わなかった年上の連中が、白虎を袋叩きにしたんだな…。どうやら大勢の力でなら白虎に勝てると思っていたらしい。」


「…彼はどうなったのですか…?」


ハヨンはおそるおそる尋ねる。今も白虎は生きているのだから、大事には至らなかったのだろうと思ったが、幼い折の喧嘩というものは、年の差による体格の違いは大きな弱点となる。ハヨンはその事を思い出して肝が冷えたのだ。


「あの子はあちこち軽い怪我はしていたが無事だった。ただ、問題なのは他の連中の方じゃ。あの子はどうやら一時的に我を失ったようで、その場にいた者は全員重症を負ったのだ。それも殴るとかではない。爪で引き裂き、牙を使った傷が数多くあった…」


老人が帰った頃には白虎は我に返って逃走した後だった。孤児院での出来事は既に近所の者達に知られており、蜂の巣をつついたような状態だったようだ。


そして町の人々は口々に白虎を非難した。


「彼もたしかに許されないことをしたけれど、それには理由があったのだし、彼だけを非難するのはなんだか酷いと思います…」


ハヨンはそう不満を老人に訴えた。老人はハヨンをじっと視ながらそれを聴いていたが、その目には悲しみが透けて見えた。


「あなたなの言いたいことはわかる。わしもあの子には申し訳ないことをしたと思っておる。じゃがな、わしがその真実を知ったのは随分後になってからなんじゃ。それに、他の者に真実を語っても信じてはくれなかった…。きっと彼は恐ろしいという固定観念だけで、全てを遮断してしまっているのだろうな…。」


暫しの間沈黙が流れる。人を超えた力に怯えてしまうことはハヨン達にもわからないことはなかった。そのため、白虎に関して過敏になっている人々をただ責めるのも違うこともわかっていた。そして、自身の異端さのために、人々から疎まれる怖さも、ハヨン達は感じたことがあった。


代々受け継ぐ力を持っていないこと、容姿が人と違うこと、自分以外に同性の剣士がいないこと…
それぞれ違うものの、特異とみなされるあの視線の痛さを、みな知っているのだ。

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