第9章 Episode 8
新曲たちも無事完成し、来週からアルバムのレコーディングが始まる。
ゼロアリーナのこけら落としも気にかかるが、私は私の仕事をしなければいけない。
そんな時、携帯がラビチャが来たことを告げた。
「んー?誰だろ」
ラビチャの送り主は天だった。
IDOLiSH7の寮で話した時に番号を交換し、それ以来たまに連絡を取るようになっていたのだ。
ラビチャには、「今、通話いいですか?」とだけ書かれていた。私が大丈夫だよ、と返信をするとすぐに電話がかかってくる。
『もしもし』
「もしもし?天、どうしたの?」
『陸から、来週からレコーディングが始まると聞いたので、それまでに一度会えないかと思って』
「今週中なら大丈夫だよ。いつ空いてる?」
『急にはなりますが、明日と明後日の夜までなら空いてます』
「じゃあ明日にしよっか」
あ、でも待てよ?2人でいたらもし誰かに見られた時に困るんじゃないかな。
特にもうじきこけら落としもある。
ただでさえアイドルはイメージが大事だし、顔を出していない私は世間から見たら一般人だろうし...
『場所などは心配しないでください』
私が悩んでいたことを察したのだろうか。
天が提案してくれた場所は、確かに外よりは周りの目を気にせず済むだろう。
「たしかに、そこならファンのことは気にしなくていいね」
『まぁ、とてもデートに使う場所ではないですけどね』
「でー、と...?」
驚き過ぎて変な声が出てしまった。
受話器越しに天が笑うのが聞こえて、私は更に恥ずかしくなる。
「天、笑いすぎ!あんまり年上をからかわないの!」
『からかってなんかない。僕は最初からデートのつもりで誘ってましたよ』
「よくまぁ恥ずかしいセリフをさらっと...」
『ふふ。じゃあまた明日。近くまで来たら連絡してください。迎えに行きます』
「了解」
そうして長いようで短かった通話は終わった。
デートか...。最後にデートらしいデートをしたのはいつだったか...。
服はどうしよう、メイクはどうしよう。
そんなことを考えていると、あっという間に時間は過ぎていた。