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御伽アンダンテ【HQ】【裏】

第14章 刻


改めて病室に戻る。
殺風景な部屋だ。
何もなく、真っ白で、機械の音だけが響いている。
「…………」
久々に泣きそうになる。
大きくため息が出てしまい、の顔が不安そうに歪んだ。
「悪い、その…、昨日来れればよかったと…」
彼女の声は昨日が最後だった。
昨日来て、沢山聞いておけばよかった。
最後に聞いた声は、悲しそうに、冷たく、怒っていた。
幸せそうに笑ったり、安心するような声で、大丈夫だと、そう言って欲しかった。
脱力する。
「……怒らせたままだったな…」
逃げてしまった自分が悪い。
自己嫌悪で吐き気すらする。
はそんな俺の手を何回か力弱く叩き、鞄を指差した。
唯一彼女の持っていた余所行き鞄。
さすが金持ちの名家生まれ、高そうな物だと思った。
中から紙と指輪が出てくる。
外してしまったからまたつけてほしい、と彼女が言っているような気がする。
左手を出され、力なく、掛け布団の上に落ちる。
すっかり細くなってしまった指では、今にも落ちてしまいそうだ。
それでも、そう望むなら。
また以前のように、薬指にゆっくりとはめる。
嬉しそうに、また笑った。
手紙は、開こうとしたら止められてしまった。
帰宅してから読むことにしよう。
今はただ、残された時間をゆっくりと、静かに過ごそうと思った。
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