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御伽アンダンテ【HQ】【裏】

第13章 暁ばかり憂きものはなし


「彼女には……」
「言いません」
それでも、まだ確実にそうなると決まったわけではない。
もしかしたら、なんとかなるかもしれない。

病室で起き上がったはそう思わせるくらい、いつも通りだった。
笑顔で手を振ってから、申し訳なさそうに謝罪される。
「ごめんね……私も、楽しみに、してたんだぁ…」
「いや、体調が一番だ」
「すぐ治すから、待ってて」
「ああ」
現実感がなさすぎて、素っ気ない返事しか出来ない。
救急の病室は、病院のほぼ最上階にあり、町が綺麗に見渡せる。
大きな窓から、様々な光が入ってきた。
「綺麗……」
「あちこちでイルミネーションしてるからな」
「じゃあ、今年は…、ここだね…」
「ああ」
『今年は』と言ってくれたのが、凄く嬉しかった。
それと同時に、悲しかった。
叶わないかもしれないと、ふと思った、
らしくない。
喪失の恐怖が目の前に迫ると、現実味がなくなった世界に実感が沸かない。
心配させないように振る舞わなくては、と、彼女の肩を寄せた。
「来年は、出掛けよう。
免許も取って、遠出して、町の夜景を見下ろそう」
「…うん!」
幻想的な夜景は、元気付けてはくれない。
まるで灯籠流しすら連想させてしまう。
連れていかないでくれと、強く窓の外の景色に願うことしか出来ない。
自分の拳が震えているのがバレないように、そっとポケットにしまった。
他に患者がたまたまいなかったのは幸いした。

朝日が登るのを色々な話をしながら一緒に眺める。
もうすぐ登り切るのを待てず、は寝てしまった。
町の灯りが消え、ゆっくりと雲の隙間を縫って、陽光が差し込んでくる。
こんなにも、明日が来ないことを祈ったことはない。
せめて、二人だけで、時空の狭間に閉じ込められたい。
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