• テキストサイズ

御伽アンダンテ【HQ】【裏】

第12章 灯火に陽炎


「それでは、いよいよ終盤ですが…」
司会が場を埋め、後ろで準備する黒子が忙しそうに行き来する。
そろそろ寒くなってきた。
「大丈夫か?」
が数回咳き込んだのを確認し、声を掛ける。
「そろそろ帰るか?」
「…最後まで、いたい…」
は寂しそうに言った。
なんとなく、その表情があまりにも儚く、自分らしくもない不安が押し寄せる。
「ダメだ、帰るぞ」
「…!?な、なんで…」
手を引き、急いで校舎に入る。
「鞄はどこに…」
「ま、待って、牛島くん…!大丈夫、だから…!」
「また入院するかもしれないぞ」
焦燥感のせいで語気が強くなる。
そんなつもりはなくても、それは彼女を傷つける。
「……!」
「……悪い…」
「う、ううん……心配してくれてる、のに、ごめんね……」
「いや、違う…」
またしばらく会えなくなるかもしれない、そんな自分勝手な被害妄想でそんな顔をさせてしまった。
もっと上手い方法もあったはずだ。
「寒いか?」
「さむ、い…」
「ジャージでいいか?」
「あ、ごめんね、ありがとう……」
ひとまず、休憩所になっている教室にを座らせ、部室まで走った。
なんとか短時間で済まそうと思った。
ついでに自販機で温かい物が残っていないか見たが、全て売り切れのランプが点灯している。

諦めて戻ると、もう僅かな火柱になったキャンプファイアが窓から見えた。
「終わっちゃうね…」
「ああ」
その言葉があまりにも近く、鼻の奥がつんと痛くなる。
いつもそうだ。
何かあるとすぐ、その隣り合わせのそれと重ねる。
喪失がどれだけ怖いか。
主治医に言った覚悟を決めない覚悟とはなんなのか。
/ 85ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp