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御伽アンダンテ【HQ】【裏】

第9章 白露に吹きし風


あの日、病院に戻ったのは深夜3時を越えていた。
怒られるのはわかっていたが、あんなに消えそうなを病院へ置いておくことは、どうしても出来なかった。
少し童顔な主治医も、珍しく年相応に見えるほど心配はしてくれていた。
「若利くん、それは、やりすぎだ」
「わかってます、すみませんでした」
すやすやと寝ているをベッドに下ろしながら、形式だけは謝った。
先生も謝罪をしてくれた。
そのあとの回復は驚くほど順調で、は夏休みの課題をほぼ終わらせていた。
「お盆休み…、いっぱい、一緒にいれたら嬉しいなって……」
健気な言い方があまりにも胸を締め付けられ、人前にも関わらず、抱き締めてしまった。
退院してからしばらくは、お互いの部屋を行き来したが、簡単に壊してしまいそうで、なかなか踏ん切れなかった。
なるべく部屋にいないようにしたが、一緒にいたいという矛盾もあり、息の詰まるような生活だった。

そのまま今日まで来てしまった。

午後7時、花火が打ち上がる。
二人だけの特等席で見るのは、更に美しい。
毎年別に見たくて見ている訳じゃない。
ジョギングのついでだったり、試合終わりに皆で来たり。
たまたまの、惰性で、毎年見なくては落ち着かない物になって、やがて、一人でもこの場所で見るようになった。
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