• テキストサイズ

御伽アンダンテ【HQ】【裏】

第6章 水没した夢幻城


他人の家を悪く言うつもりはないが、夏になり、隣地からの異臭が少し漂ってくる。
「、前から気になってたが…あれは…」
「うーん、知らない人のおうち…」
「そうか」
もしこれが保護者なら、間違いなく、殴りに行っていた。
「でも、あの人のお陰で、ここ、家賃1000円なんだよ!
凄いよね…!」
満面の笑みを、こんな場面で見ることになるとは思わなかった。
嬉しそうにそんな話をしてくれる。
だが、そんな笑みも次の瞬間に消える。
「あ」
水浸しの畳、布団、本棚。
まるで水没した都市の一角を見ているようだった。
「た、たいへん…!」
慌てて彼女は本棚の中身と薬を取って鞄にしまった。
そのあまりにも風化してしまった、木造二階建てアパート家賃1000円は、雨漏りにより、部屋を水浸しにしてくれた。
「わ、ど、どうしよう…!?」
パニックになったはくるくると回って他に運び出す物がないかを探した。
制服の代えのブラウスと洗濯物を確保し、はあはあと呼吸を荒げる。
「おい、休め。俺がもう少し運ぶから」
「う、ううっ、ご、ごめんね…!」
部屋を見渡し、大切そうな写真と、書類ケースを開け、不動産の書類がないかざっくり見渡すが、見つからなかった。
保護者の家にいかないとないかもしれない。
「、俺のタオルを…」
「あ、ありがとう……」
使っていない1枚を渡すとすぐに羽織らせた。
寒くないか聞いたが、大丈夫そうだった。
「とりあえず、俺の家に来てくれ」
「…!そ、それは、悪いよ……」
「悪くない。体調崩されるよりマシだ」
びしょ濡れの身体を引いて、ひとまず自宅に急いで向かった。
もう外は真っ暗だったが、雨は相変わらず止まず、音が不気味にすら感じる。
それはどこか、城が崩れ去る音に思えた。
/ 85ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp