第2章 生贄の乙女#
バタン―――――――――
重量感のある音を立てて扉が閉まり、室内の蝋燭が一斉に灯って長い一本の廊下を照らしだす。
(あれ…私、ここって……)
遠くて豆粒程にしか見えないが、沙里は廊下の最奥にある、豪華な装飾が施された鉄の扉をその目に映した。
禍々しい雰囲気を感じ取り、どこか緩んでいた心が再び凍りつく。
外観の美しさに掻き消された負の感情が、間欠泉のように湧き上がって蘇った。
「…!あ、嫌…いやっ!開けて!ここから出して…っ!!」
急いで廊下に背を向け扉を叩くが、分厚い板はビクともしない。
あまりに必死で痛みも忘れ、手から血を流しながら助けを求めるも、あの男達は今や帰路の途中。
「う…お願い…助け、助けて……」
ガクリと項垂れた沙里は、自分を強く抱き締めてただただ震えた。
ヒュゥウ………
その時、どこから吹いた風が沙里の髪を揺らし、知らない誰かの声を届けた。
―――――――怖がる必要はない
「!?」
それはまるで、頭の中に直接話し掛けてくるような。
不思議な感覚だった。
低くて少し掠れた男の声に導かれ、また沙里の中から一切の感情が無くなる。
自身の足取りすらも記憶に無いまま…気が付けば、彼女は鉄の扉の向こうへ足を踏み入れていた。