第2章 瓜2つ
散々だ。
自分ではいいコースにボールを打てたと思っても、すぐにダメ出しをされる。
「そんな球で本当にいいと思ってるわけ」と手厳しく批判される。
もちろん、私を思ったが故のアドバイスなら、どんなに厳しくったって私も受け入れられるだろう。
むしろ自分のためにここまで言ってくれてありがとう、と恩義すら感じるかもしれない。
けれどそれはどう見たって言いがかりでしかなく、ただ私を非難したいがためだと分かっているからこそ、内心で反発したい気持ちが収まらない。
「こんな下手でもスタメン入れるとかあり得なくない?どんな裏取引使ったのか教えてくれる?先生のご機嫌取り?それとも枕営業?まあどっちにしろ姑息なのは事実だけど」
「…っ、」
ぎり、と握りしめた拳からはわずかながら血が溢れる。
挑発に乗っちゃだめだ、だめだ、……だめ、と分かっているのに、ふとすると口をついて出そうなほど寸前まで達した怒りは、こらえるのだけでもはや精一杯だ。
なんとか感情を押し殺そうとしても息が詰まって、生理的な涙がじわりと滲む。
でも泣かされたみたいで嫌だからまたそれもこらえようとすると、両手では収まりきらないほどに手一杯になってしまう。
「ほら早く見せてくれる、下手くそサーブ」
もう、限界だ。
私はこんなことを言われるがためにバレーを頑張ってきたわけじゃ、
「知花ちゃん」
吐き出しそうだった言葉が、柔らかな熱にふわりと包まれる。
代わりに目の前が真っ暗になったけれど、不思議と不安は感じなかった。その温かさが安心させてくれているのだろうか。
「大丈夫」
優しい声とともに、彼の、及川先輩の匂いが鼻をかすめる。
思わず、背に回された手をきゅ、っと握りしめていた。
はたから見れば抱き合っているような光景だろうが、男女のそれとは違い、親が子をあやすような情愛に包まれている。
だから、今まで必死にこらえてきた思いが、堰が切れたように溢れ出す。
「及川、先、ぱ…い…」
「もう大丈夫。俺が来たから」
ぽんぽん、と頭を撫でるその手が優しいから、止めなければならないはずの涙が次々と溢れて止まらなくなった。