第5章 睡蓮
「そンなもんが或るのか?」
『はい、有名な物が蓮の花托 (かたく)ですね。』
「見た事無ェな。」
『是非見てみて下さい。中也さんも明日から集合体恐怖症の仲間入りですよ。』
「気持ち悪ィって分かってて見るかよ!」
『見るなって云われると見たくなりません?そういうのをカリギュラ現象と云うんですよ。』
「ふーん。手前は良く知ってんな。」
『人身掌握は役に立ちますからね。』
「益々何で気付かねェか疑問だな。」ボソッ
『え?』
「なンもねーよ。」
私は今中也さんの執務室で書類を片付けている。
無論、整理整頓の方では無くて提出する為だ。
ここ何日か二人共。いや、三人共忙しかった故に大量に溜まっている。
その三人目から押し付けられた書類が中也さんの倍程有り、文句を云い雑談をしながら一緒に片付けているところだ。
『つかぬ事をお聞きしますが断らなかったんですか?』
「断って済むと思うか?」
『いいえ。』
「だろ?電話も出ねェし何処探しても居ねェしよ…。」
『私掛けましょうか?』
「あァ、そうしてくれると助かる。」
直属の上司であり相棒でもある中也さんの頼みだ。
太宰さんに連絡するぐらい如何ってことない、筈なのだが…。
プルルル「もしもしー?」
『今日はワンコールですか。最短記録ですね。』
「うふふ、そろそろ仔犬が散歩に出たいと云い出す頃じゃないかと思ってね。」
『ハァ。…分かってるなら戻って来てくれても良いじゃないですか。』
「其れは駄目だよ。君からの電話楽しみにしてるんだから。」
『だから中也さんの電話を何時も留守電にしてるんですね。』
「でもその代わり君の呼び出しには必ず応じてるでしょ?」
『……じゃあ今回も期待してるんで。』
私は多忙だった三人目である太宰さんにそう告げると電話を切り中也さんに戻ってくる旨を伝える。