第2章 夜警
「付き合っていないのならば良かった!まぁ愛理ちゃんは私と共に在ると決めたからね。」
「……は?」
太宰が勝ち誇ったように云うと先程までカウンターに突っ伏せていた中也はガバッと起き上がり如何いうことだ、と真っ直ぐに愛理を見つめる。
『私と太宰さんが出逢った時の話ですよ。何時ものように私と心中を〜と云うから貴方が没する時共に在りましょう、と云ったんです。』
「へェ。で?今もそれは変わらねェのか?」
『えぇ、変わりませんね。あの時から。』
「如何だい中也。此れで分かっただろう?」
嘘はついていない。
本当にあの時から私は太宰さんと共に在ると決めたのだ。
ただ、
『ただ、“共に在る”と云うだけでそれ以上のことは無いですけどね?私が好きなのは中也だけですから。』
少し間を空けて彼は答える。
「ふふっ、とうとう掌から羽ばたいちゃったねー。悪い虫が付かないように、私しか見えないように鳥籠に閉じ込めてた心算なんだけど。」
『真逆。世界を魅せてくれたのは太宰さんでしょう?その悪い虫に出逢わせたのもそうですよ。』
「まっ、ちんちくりんに嫌気がさしたら私の元へ戻っておいでよ。今度はよそ見なんてさせないから。」
じゃあねー、と云うと彼はちゃっかり飲み代を中也に請求するようマスターに告げ帰ってしまった。
残ったのはすっかり酔いが覚めた中也と私だけ。
「手前ェもなかなか喰えねェ野郎だな。」
『ある種私は喰われる側ですよ?それに野郎ではありません。』
「仕返しか?」
『いいえ、恩人でもあり師でもありますから。故に私の発言に嘘偽りは有りませんよ?』
しっかりと中也を見据える彼女は少し酔っているのか頬がほんのり赤くなっていた。
それを見た彼は、「酔いが覚めちまった。飲みなおすぞ。」と言い再度グラスを傾けた。
「なァ、愛理。好きだ。」
『私も。中也が好き。』
「あぁーあ、真逆中也に攫われるなんてね。私は生涯添い遂げる心算だったんだけどなぁ。まっ、すんなり渡す気も無いんだけど。」
じっとりとした夜道にベージュの外套を羽織った男の声だけが消えていった。
END