第10章 馬鹿者が消えた世界線で…
燐音さんがいなくなって、早2週間。
ES内では驚くほどに”いつも通り”に戻っていた。
私の心は、”いつも通り”には程遠いけど、それでも仕事に没頭することで何とか自我を保っていた。
「…まいったなぁ…。私、こんなにも弱かったなんて…」
誰もいないと思って、ポロっと出てしまったのだけれど。
「そうっすか? 姐さんは十分強いと思うっすけど」
「ひゃあ!!??」
バッチリ、聞かれていたらしい。
それも、あの人のユニットの、椎名ニキくんに。
「驚かせてすんませんっす。姐さんの姿が見えたんで、声掛けようかなって思ってたところだったんで…」
「あ、ううん! ごめん、誰もいないと思ってたからビックリしちゃって(笑) ところで、何か私に用だった?」
「そうなんすけど、姐さん今時間大丈夫っすか?」
「うん、仕事も一段落したから、大丈夫だよ」
「良かったっす! それじゃあ行くっすよ~♪」
「え? ええ!??」
ニキくんはおもむろに私の手を握って、軽く走り出した。
流石燐音さんのユニットメンバー…唐突だなぁ(笑)
でもそんな”唐突”が懐かしくて、私は自然と笑顔になれていた。
「ここは…」
「僕のバイト先のカフェっすよ♪ さぁどうぞ! この時間は貸し切りっす♪」
お洒落で落ち着いた雰囲気のカフェで。
あぁ、そう言えば燐音さんから聞いたことのある店名だな、と思うと何だか嬉しくなって。
「姐さん、この席に座って下さいっす。ここ、燐音くんが来る度に毎回座ってたんすよ」
「そうなんだ…」
「もういつも大変だったんすよ!! いっつも邪魔ばっかりするし!!」
「あはは、目に浮かぶなぁ」
ニキくん目線の燐音さんのお話がとても新鮮で。
どのお話もまるで、つい昨日のことのようで。
明日も、その先も、まるで同じように続いていくようで。
目頭が熱くなって、ついには我慢してた涙が零れ落ちてしまった。
「あ…、ご、ごめんニキくん…」
「…いいんすよ。姐さんずっと我慢してたンすよね。はい、カルボナーラっす。姐さん、好きなんすよね?」
「え…何で知って…??」
「燐音くんから聞いたっす♪」