第6章 悪夢の外伝
「それじゃあ、いってくるから」
スティーブンさんの笑みは優しい。
だが目は笑っていない。
『次に斜め上の行動に出れば、何をされるか理解しているな?』と、かもし出される脅しのオーラが私を威圧する。
「ご主人様。いってらっしゃいませ。武運長久をお祈り申し上げます」
従順にすると、敵は満足したらしい。
私のアゴを指先でくすぐり、
「全く。僕の子猫はいつもワガママだな。帰ってきたら、もう少し僕の相手をしてくれよ?」
いつも相手してますにゃー。ゴロゴロゴロ。
「それじゃ、いってくる。外に遊びに出ちゃダメだよ」
私をちゃんと立たせて、もう一回キス。
「分かってますよ。いってらっしゃい、スティーブンさん」
手を振ってお見送り完了。ドアがバタンと閉まり、自動的に鍵がかかる。
「…………」
せっかくの休日なのに、スティーブンさんがいなくなった途端、輝きが色あせる。
私はテンションもガタ落ちでため息。
「ヴェデッドさんが来る前に、ちょっと魔術の鍛錬をやっときますか――ん?」
リビングの固定電話が鳴ってる。番号を見るとヴェデッドさんだ。
私は急いで電話を取った。
「ハルカです。どうしました?――え? そうなんですか? ええ、大丈夫です。ガミエル君を看ていてあげて下さい。
スティーブンさんには私から伝えますから。では明日またよろしくお願いします」
子機を戻す。ヴェデッドさんはお子さんの急な用事で今日は来れないという。
私は静かなリビングでしばし沈黙。
「く……くくくくく……っ!」
テンションは最高潮であった!
自由! フリーダム! 解放の時来たれり!!
どこに行こう! 何をしよう!
狂喜乱舞し十分ほど踊っていると、スマホが鳴った。
「!!」
スティーブンさんである。
『ハルカ、ごめん。ちょっとだけ君の声を聞きたいと思ってさ』
「そうですか? もう、スティーブンさんったら♡」
最大限の愛想で応じる。
『……それとヴェデッドはもう来たかい? 掃除の場所について指示があるんだが』
「ヴェデッドさんは今、手がはなせないので私が伝えておきます!」
すると数瞬、沈黙があり、
『ハルカ。何か僕に隠しごとしてない?』
「してません。神に誓って」
一点の曇り無き声で私はキッパリ言った。