第4章 開き直りました
私は微笑んだ。
「寝る前に食べるのはよくないですし。あと太るかも」
「子供がそんなことを気にするなよ。それに君はもう少し体重を増やした方が可愛いと思うよ」
私には、スマートなことを言ってくれないんだ。
「ハルカ?」
「あの、もう寝ますね。待ってたら眠くなっちゃって」
スティーブンさんの膝から下りた。
「チョコレート、ありがとうございました。
明日ゆっくりいただきます。それじゃ、おやすみな――」
グイッと手首を引っ張られ、スティーブンさんの懐に戻された。
「ごめんごめん。無神経なことを言って、君を傷つけちゃった?
謝るよ。悪気は無かったんだ」
腰に手を回し、耳元や髪にキスをしてくる。
そうやって。いつもいつも、あやしつけるみたいにするんだから。
なのでガキらしく笑ってみせる。
「怒ってませんよ。ホントに、普通に眠いだけですから」
「なら僕も行って良い? 今夜は君の部屋で寝たいな」
私はスティーブンさんの寝室を見たことがない。
スティーブンさんが私の部屋で寝たいと言うのは、まあ……そういう意味だ。
「連日は止めましょうよ。たまには休まないとダウンしちゃいますよ?」
「おいおい。人を中年扱いするなよ。そこまで歳じゃないし、ちゃんと鍛えてるさ」
いや、それは一言も言ってませんがな。
「いえその……私の方が、もたないというか……」
これは半分事実である。ちょっと顔を赤くして言うと、フッと笑う声。
「ハルカ、可愛い」
「……っ!」
「なら優しくするし、君は何もしないでいいから」
いやマグロOK言われても、それはそれでなあ。
「いい子だから、機嫌を直してくれよ、王女様。行こう」
軽々と抱っこされ、リビングを後にする。
あきらめてスティーブンさんにもたれると、
「ハルカ。今日は一日中、家にいた?」
このタイミングで爆弾を投下しやがった。
私は一瞬だけつまり、
「ええ、もちろんです。そう言われたんですから」
「本当に?」
……彼が私に気づくはずがない。
クレープ店の前にはお客さんがたくさんいたし、私はずっと隠れてたのだ。
「本当です」
つい目をそらしてしまう。クソ、私の馬鹿正直め。
スティーブンさんは私を見ていた。ただその目は、いつもより鋭い気がした。