第19章 魔法のコトバ
「つまり、オレと一織は確実なんですね社長」
淡い期待が崩れガックリとするオレに一織が大丈夫だと声をかけてくる。
一「兄さんなら、きっとカワイイですよ」
「だから!まぁ、もういっか。これも大事な仕事、だしな」
いつものように反論する気力も消えかけ、いよいよ腹を括って息を吐く。
小「そうと決まれば、時間もない事だしグループごとに分かれてレッスン開始と行こうじゃないか」
万「じゃあ俺はさっそく家事代行サービスを発動させますね。実は俺の今日の事務仕事はほとんど終わらせてあるんです。だからみんなは何にも心配することなくレッスンに集中してくれていいからね?三月くん、ファイト!」
いや、なんでオレだけそんなに背中押されてんだよ。
まぁ多分、アレを着ることになる事が決まったからってのもあるんだろうけど。
とにかく、決まった事にうだうだしてる時間はない。
ただでさえオレはダンスに自信がないんだから、せめて一織や愛聖に迷惑かけないくらいにはマスターしとかねぇと。
まずは3人でしこたま練習して、それから・・・愛聖は恥ずかしがって嫌がるかもだけど例のディスクを借りて個人練習もいれて。
家事、どころじゃねぇや。
やっぱ万理さんには一時的に家事を預ける、か。
後で万理さんに自分からもお願いしておこうと考えた時、ぽんっと肩に手を置かれる。
「万理さんか」
視線を上げればいつになく穏やかな笑顔でオレを見る万理さんがいて。
万「なんにも心配はいらないから、焦らなくていいよ。あ、それとも?もしかして俺にキッチンを乗っ取られるとでも思ってる?」
クスクスと笑い出す万理さんに、主婦かっ!と笑い返して。
「出来るだけ早くマスター出来るように頑張る。だからそれまでは」
頼む、と言いかけてその言葉を飲み込んだ。
万理さんの作る飯は美味いし、これまで何度も食ってる。
それに愛聖がどれだけ食欲落ちるほど疲れていても、きっとオレより食べさせる術を知ってる気がしたから。
万「俺はあくまでも補助。みんなは三月くんの作る食事が大好きだって事、忘れないでね」
わざとらしくウインクして見せる万理さんに、思わず口元が緩む。
ホントこういう所もだよ、スゲーなって思うのは。
そんな思いを隠すことなく見せて、オレも笑い返した。