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*スーツを着た狼*【R18】

第12章 初めて見る恋人の表情





「…はよ」

「っ…、先輩!」

翌朝。
いつもと同じ時間に最寄駅へ到着すると、改札口の前には野宮先輩が立っていた。


「お、おはようございます…」

「…昨日は悪かったな」

「い、いえ…」

とりあえず彼の機嫌は直ったようだ。
むしろいつもより清々しい表情をしているようにすら見える。

(昨日の事聞きたいけど…やっぱりやめておいた方がいいかな…)

先輩の機嫌がまた悪くなったら嫌だし…
昨日の彼はそれくらい恐かったから…


「ほら…ぼーっとしてないで行くぞ」

そう言って私の手を掴んでくる彼。
その彼の拳が赤く腫れている事に気付いた。


「せ、先輩!手どうしたんですか!」

「ああ、これか…。昨日ちょっとな」

「……、」

昨日って会社出た後の事…?
帰る時はまだ赤くなっていなかったはずだ。


「別に大した事ねーから」

バツの悪そうな顔でそう言うと、彼は私の手を掴んだまま駅の階段を上った。
これ以上この件には触れてほしくないとでも言うように…


(ま、まさかとは思うけど…)

誰か人を殴ったとかじゃないよね…?
あの腫れ方は打撲という感じではない。
ふと頭に思い浮かんだのは、昨日の先輩と営業部の課長のやり取りで。

(先輩が課長の事を殴…)

いやいや、そんな事ある訳ない。
昨日の先輩はかなりお怒りモードだったけど、いくら頭にキていたとはいえ流石にそんな馬鹿な事はしないだろう。


それから私たちはいつものように電車に乗って出社した。
彼との会話は微妙にぎこちないものとなってしまったけれど…





「ねぇねぇ葵、見た?営業部の柏木課長!」

「…え?」

出社して自分の席に着くなり、同僚の梨乃が声を掛けてきた。
"柏木課長"という名前にドキリと心臓が跳ねる。


「か、柏木課長がどうかしたの?」

「それがさー、顔パンパンに腫らして眼帯までしてんの!暴漢にでも遭ったのかなー?」

「っ…」

梨乃の言葉に体がピシリと固まる。
顔に怪我を負っているという柏木課長…
拳を赤く腫れ上がらせていた野宮先輩…
思わず恐ろしい事を想像してしまった。
まさかホントに先輩が柏木課長を…



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