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*スーツを着た狼*【R18】

第6章 暗闇の中で





「…もうこんな時間か」

ふと腕時計に目をやった野宮先輩はそう呟いた。
反射的に私も自分の時計を見れば、もう22時を回っている。
社内には私たち以外ほとんど残っていないだろう。

先輩と新商品の企画を始めて早2週間…
それは徐々に形になっていき、2人ともつい根を詰めてしまう事もしばしばだった。
初めはあんなに恐かった先輩とも今では普通に話せるし、むしろ一緒に仕事が出来て楽しいとさえ感じる。
先輩は相変わらず必要以上には話さないけれど、だからと言って彼とのやり取りが苦になるとも思わなかった。


「明日が休みとはいえ…そろそろ帰るか」

「そうですね」

一旦自分のデスクへ戻り帰り支度をする。
こうして先輩と帰るのもすっかり習慣になっていた。
私が痴漢に遭って以来、「心配だから」と行きも帰りも付き合ってくれている。
最初は悪いと思って断っていたが、「どうせひと駅しか違わねーんだから」と私の方が押し切られてしまった。


「流石にもう誰もいませんね」

「…そりゃそうだろ」

エレベーターまでの通路を彼と並んで歩くが、誰ともすれ違う事はない。
私たちは1階から上がってきたエレベーターに乗り込んだ。


「来週はいよいよ、開発部の人たちとミーティングするんですよね?…少し緊張します」

「大丈夫だ…。俺たちはやれるだけの事をやったし、今回の企画には自信がある」

「先輩…」

こうやって自信を持って言えるところとか、仕事に誇りを持っているところとか…
先輩のそういうところは本当に尊敬出来るし、素直にカッコイイと思う。

(梨乃が騒ぐ理由も解ってきたかも…)

そんな事を考えていた時だった。


「きゃっ…」

突然ガタンッ!と大きく揺れたエレベーター内。
それと同時にパッと明かりが消え真っ暗になる。


「大丈夫か?」

「は、はい…」

バランスを崩した私を咄嗟に支えてくれた先輩。
少しの間動かず様子を見ていたが、エレベーターが動く気配は無かった。


「…ったく、システムエラーでも起きたのか?」

「……、」

胸ポケットからスマホを取り出した彼はライトを点け、ドアの脇にある非常ボタンを押す。
すぐに向こうから反応があったものの、原因を調べる為に少し時間が掛かるとの答えが返ってきた。



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