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*スーツを着た狼*【R18】

第4章 近づく距離





「…一旦休憩にするか」

時間が経つのは早いもので、あっという間にお昼休憩の時間になった。
本当は野宮先輩に昨日の事を問い詰めたかったが、私にそんな勇気は無く…
それに、仕事中プライベートな話を持ち出す訳にもいかない。
…平静を装って仕事を全うした自分を誰かに褒めてもらいたいくらいだ。


「…笹木、今日も屋上に来いよ」

「…え?」

「飲み物だけ持って来い」

「……、」

先輩はそれだけ言うと、私の返事も待たずミーティングルームを出ていった。
私も資料と筆記用具を手に、一度自分のデスクへ戻る。

(どうしよう…)

行かなきゃダメ……だよね。
仕事中は昨日の事を考えないようにしていたが、やはり先輩を前にするとどうしても頭を過ってしまう。
いっその事、思い切って聞いてみようか…どうしてあんな事をしたのか。

昨日は私のパソコンに梨乃からの伝言メモが貼ってあったが、今日は私が彼女のデスクに『ごめん、今日も先にお昼出ちゃうね』と付箋を貼る番だった。





「…来たか」

「……、」

屋上にはすでに先輩の姿があり、昨日と同じく隣に座るよう促される。
私は緊張しながらも、自販機で買ってきたお茶を手に彼の隣へ腰を下ろした。


「お前…どうせ今日も社食かコンビニで済ませるつもりだったんだろ?」

「は、はい…」

「そうだろうと思って…今日はお前の分の弁当も作ってきた」

「えっ…!?」

差し出された、少し小さめのお弁当箱に戸惑う。
作ってきたって…わざわざ私の為に…?


「昨日も言っただろ?仕事は体が資本だからな」

「それはそうですけど…な、何だか申し訳ないです」

「…気にすんな。1人分作んのも2人分作んのも大して変わらねーから」

「……、」

彼の厚意を無下にする訳にもいかず、有り難くそのお弁当箱を受け取る。
パカッと蓋を開けてみれば、昨日と同じく色鮮やかなその見た目が食欲をそそった。

どうして彼はこんなに親切にしてくれるのだろう…
同じ仕事をする事になった仲間だから…?
でもそれじゃあ、昨日のキスは一体…


「…どうした?何か嫌いなもんでも入ってたか?」

「い、いえ違います!すごく美味しそうだなぁって」

「だったら早く食っちまえ」

「は、はい…頂きます」



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