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出演者達に休息を「番外編」

第4章 王馬くんが何か言いたいことがあるようです




「足りないよ」


深くため息をついて。
捨てられた子犬のように瞳を潤ませて。
眉は八の字、決まってる。
クッションは両手で抱いてこの位置、この角度。


「ねぇ…愛が足りない。意味わかる?」


どうだ、食らえ!
あざとさMAX、上目遣い。


『……王馬』


今手が離せない、と亜美ちゃんは一刀両断。
せっかく作った媚びる表情も、ポージングも、何もかもが一瞬で無駄になった。


(……視線くらい、くれたっていいじゃん)


まぁでも仕方ないなぁ。
今はキー坊のメンテナンス中。
彼女が一番話しかけられたくない時間。
キー坊と二人きりにしておいてほしい時間。
オレの入る余地なんてない。
けど側にいることは許されてる。
付き合う前までは、何を企てたところで一切相手にされなかった。
研究室は彼女のテリトリーだ。
きっとオレ以外の人間がここにいたら、彼女はメンテナンスなんてしていられない。
キー坊が「ロボット」であることが決定的になるその瞬間を、彼女は誰にも見せたがらない。
なんでってそんなこと聞かなくたってわかる。
自分の唯一の家族と等しい存在がロボットなんて、そんな決定的な瞬間、人前に出したくないに決まってる。


(………もう3時間……)


どれだけ高性能なのか知らないけど。
もう3時間も放っておかれてる。
放っておいていいよ!なんて言ったけど、あんなの嘘だよ。
絶対嘘って気づいてたくせに、亜美ちゃんは騙されたフリをし続けた挙句、オレが声をかけるまで一切なんの関心も向けてこない。


「……ねぇー、昼もぶっ通しでメンテナンスするのー?お腹すいたー、オムライス食べたいー」
『うん、食べてていいよ』
「やだよ、それぞれ好き勝手やってたら何のために会いにきたのかわかんないじゃん!外で遊びたくないって言ったのは亜美ちゃんでしょ?」
『あー…正論だなぁ……うーん…』
「ねぇってばー!構ってよ!」


あ。
言っちゃった、今の無し。


「…じゃなくて、遊ぼうよ!ねぇ遊ぼーーー遊ぼう遊ぼう遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ」
『わぁぁ…バグみたい』


作業台にキー坊を乗せて、立って作業をしていた亜美ちゃんの白衣を力の限り引っ張った。
予想通り。
残念な筋力しか保持してない彼女はバランスを崩し、小さく声を上げて、オレの方に倒れこんできた。

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