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迷い道クレシェンド【HQ】【裏】

第4章 お兄様と炊飯器


炊飯器がけたたましい音と共に米の炊き上がりを知らせてくる。
「へいへい」
独り言を言いながら音を消すと、今度はチャイムが鳴った。
荷物か?とドアを開けると、

「こんばんは」
「及川……」

やたら背の高い上品な野郎。
見覚えのあるその姿にすぐに名前が出た。
目の前に何故か立っている。
ここになんの用があるなんて、検討もつかない。

「こんばんは、すみません、うちの妹がお世話になってます」
「妹?」
「るる、いるんでしょ?」
前髪を整えながら及川は勝手に家の中に声をかけた。
「は?誰だそれ、寒いから閉めるぞ」
「ちょっと待ってよ」
閉めようとしたドアを片手であっさりと押さえられる。
「それ以上入ると不法侵入だぞ……」
不機嫌にそう言えば
「オッサンこそ、女子高生に何してんだよ?」
なんて返されてしまう。
思わず強ばった身体に一瞬の隙を取られ、ヤツはずかずかと上がり込んできた。
「るる、いるんでしょ?」
今度は呼び掛けるように同じ言葉を繰り返した。
「るる!鍵閉めろ!」

コイツがあの背中の傷を付けた…。
コイツがあんなに怯えさせた…。
コイツが、全てを奪った……

何に対してムカついてんのかもうわかんねえ。
とにかく離さないと、それしか頭になかった。
「るる!!鍵閉めろ!!」
「るる、この親切なオジサンを警察に突き出したらどうなると思う?」
「俺なら大丈夫だ、頼むから、開けるな……」

低く呟いた俺の渾身の願いは、残念ながら聞いて貰えなかった。
かちゃっとドアが開くと荷物を纏めた華奢な身体が出てくる。
「繋心さん、お世話になりました…。
これ以上…ご迷惑お掛けできません……」
最初に挨拶してくれたときと同じくらい丁寧に挨拶される。
深いお辞儀だった。
「るるに感謝だね、けーしんさん。
これで前科は付かないね?」
ねっとりした笑みを浮かべると、及川はるるとこの家から出ていった。
彼女の手を引いてもよかった。

だがアイツは、俺を守るために戻ってこない。
自分を犠牲にして、出ていった。
またツラい日々に戻っていく。
俺は、また彼女を助けることが出来るだろうか?
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