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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い



「何かこう、楽して大金を稼げるような仕事は……」

「そういう考えはダメだよ、松奈ちゃん。大きなリターンには大きなリスクがつきまとう。
 人間、汗水垂らして真面目に稼ぐのが、大金への一番の近道なんだ」

 メッと、叱るチョロ松さん。お兄さんらしいお説教だ。
 あとはあなたが、無職かつパチンコ店常連でさえ無ければ完璧なのに。

「急に変なことを言い出すんだね。何かお金が必要なの?」
 詮索(せんさく)ではなく、普通に不思議そうなおそ松さん。
 暇そうにしていた他の兄弟が、私に視線を向ける。
 猫をじゃらしてた一松さんまでも。な、何か言い訳を考えねば!

「お母さんとお父さんには本当に可愛がっていただいているので、親孝行に、旅行にでもご招待出来ないかと思いまして」

『っ!!』

 兄弟全員が、一斉に見えない矢を受けて昏倒する。
 それを良いことに、私は求人誌をめくり、考えに没頭した。

 次元転送装置の部品購入に、三百万円が必要。

 額に腹が立つ。
 一千万なら『用意出来るか! ここに永住するわ!』と吹っ切れたかもしれない。
 百万なら『頑張れば稼げるかも』と滞在を延長して真面目に働いたかもしれない。

 だが三百万は微妙だ。今の暮らしを続けコツコツ働いたとして、何年もかかる。
 そんなにかかっていたら、元の世界で、私の存在が忘れられてしまう。

 もしかして、私はデカパン博士にだまされてるんだろうか? 
 ほら、推理小説や映画にもあるだろう。記憶喪失の人間を利用し、偽の記憶をすりこんで犯罪者に仕立てたり、組織の手先に使ったり、お金を稼がせたり。

 ……ないな。あの研究者は、紛(まご)うカタ無き変態だが頭脳は本物だ。
 手の込んだ嘘で小娘をだます理由が無い。

 だとすると、やはり三百万がいる。

 でもチョロ松さんの言うとおり、高いリターンには高いリスクがつきもの。
 だが何とか、何とかしなければ。むろん、リスクは無しの方向で。
 一人悩む私に、一松さんが何か言いたそうに口を――。

「どうした、妹よ。何か悩みでもあるのか?」

 フッと笑う声。カラ松さんである。
 ……家の中でサングラスをする意味があるのだろうか。
 そしてキザっぽく外す理由も。

 でも、彼の言葉は本物だった。

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