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【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】

第1章 神の初期刀・前編(加州清光、大和守安定編)




 ――しかし、敵の凶刃が清光を襲うことはなかった。敵と自分との間に白い光が飛び込んできたかと思うと、自分が受けるはずだった敵の斬撃と激しくぶつかり合ったのだ。光に優しく押され尻餅をついた清光の頬に、生ぬるい液体が散る。それが血だと気づくと同時に、彼は緋雨が自分を庇って敵の刃を受けたことを知った。


「ああ。いたい、いたい。いたいなあ」


 悲痛な声が清光の頭の上に降り落ちる。緋雨の声だ。堪えることもせず、さもさめざめ、といった風に素直に身を襲う苦痛を吐露する彼の、胸を抉るような壮絶な慈悲のこもった声だ。右肩に牙が貫通するほど深々と噛みつかれ、しかも自分の背丈ほどもありそうな身幅の刀に胸のど真ん中を刺し貫かれた状態で、悠長に「いたい」などと言っている様子はかなり異様だ。守られたこっちもこっちでぽかんと阿呆みたく見つめている場合ではない。普通なら。


 けれど彼が主ならそれも許される。彼は死なないのだ。この程度の裂傷が彼をあの世へ連れて行くことなど出来はしない。


 異形の敵がうなり声を上げながら渾身の力を込めると、緋雨の華奢な体がくの字に曲がった。ばぎ、ぼぎと響く聞くに堪えない音は、敵の凶悪な歯が彼の骨を食いつぶす音だろうか。ぼたぼたと地面に落ちる夥しい量の血を見て、清光の全身にみるみる冷たい汗が差す。死ぬことはない。分かってはいるが、だからといって簡単に分別がつくものでもない。敵によって傷つけられ崩れていく主の体を見て、肝が冷えないわけがないのだ。


 そんな清光の心中など知らず、緋雨はあろうことか幼子をなだめるかのような優しい手つきで敵の頭を撫でた。


「よしよし、今まで苦しかったろう。迎えが遅れてすまなかったな、もう眠れ」


 慈悲深いその言葉が終わるや否や、敵の太い首に一筋の銀光が走った。次の瞬間にはそこから夥しい血泉が噴き出し、敵の巨体が傾ぐ。地響きを上げて敵がくずおれると、緋雨は首だけで腰が抜けて座り込んでいる清光を振り向いた。


「平気か、清光。怪我はないか」
「あるじ、」


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