第6章 初めての出陣
三成の姿を見ると信玄は後ろに下がり刀を鞘に戻した。
『謙信、これまでだ。今日は引くぞ』
『つまらん。信長に会えぬまま引いてはここまで来た意味がない』
『それは俺も同じだ。だがさっきも言った通りだ』
信玄が謙信を冷静に説得する。
『信長に伝えろ、次に会うときはその首をもらうとな』
そう言って謙信も刀を鞘に納める。
『謙信様、信玄様、こちらです』
佐助の声が聞こえたと同時に周囲が白い煙に包まれた。
煙が晴れた時にはすでに謙信たちの姿はなく、政宗たちも刀を鞘に納めた。
『三成、まだ信長様と直美の姿が見えない』
政宗がそう伝えると三成の表情が曇る。
『城の右手でしたね。橋を落として狼煙を上げたらすぐに向かいましょう』
すでに空は暗くなり始めていた。
城を後にした謙信は正面から佐助を睨みながら問い詰めている。
『佐助、急に黙って姿を消して今までどこにいた?その腕の傷は何だ、どこのどいつにやられた』
『やはり謙信様に隠し事は無理な様ですね』
『言わぬなら斬る』
『ちゃんと言いますから落ち着いてください。城に着いてから不審な気配を感じていたので周囲をずっと警戒していたんです』
『で、何を見つけたんだ?』
信玄も気になる様で会話に加わる。
『忍です。正確には見つけたのではなく、こちらが見つけられる側でした』
『『忍?』』
2人が声を上げたのはほぼ同時だった。
『はい。目が合った瞬間に敵の忍だとわかり、そこからはいきなりの修羅場でした。使っていたクナイの形状から、風魔の者で間違いないです』
『風魔だと?では北条の奴が何か企んでいるのか?気に入らん、今から小田原攻めでもするか』
『謙信、お前が北条を嫌いなのは知ってるが、今からじゃさすがに無理だ』
本気にも思える謙信の言葉を信玄が冷静に返した。
『修羅場になったあと、何とかして戻って来れましたけどかなり手強い相手でした』
浮かない表情の佐助を見て謙信が声をかける。
『修行が足りない証拠だ。喜べ、春日山に帰ったら俺が直々に鍛練の相手をしてやる』
『それ、いつもの事ですよね』
『念のため小田原にも三ツ者を潜らせる。場合によっては戦かもな』
『そうなればいいがな』
3人は馬に乗ると春日山への道を駆けて行った。