第22章 帰城
それから数日、直美の傷も順調に回復し、いよいよ安土に向けて出発する時が来た。
謙信たちも春日山城に向けてすぐに富山城を発つ事になる。
直美は城門前で見送る謙信たちに別れの挨拶をしていた。
『謙信様、信玄様、お世話になりました。ありがとうございます』
『いつでも春日山に来い。歓迎する』
『懐刀、返して欲しかったら直接取りにおいで。ただし、その時はまた囲碁で勝負だ』
『ああっ!約束ですよ、あれは大事な懐刀なんで絶対に返してもらいますから!』
信玄と直美の会話を聞いていた謙信が静かに何かを取り出した。
『刀か、じゃあこれを休戦協定の締結祝いにくれてやる』
そう言った後、謙信に無理矢理手渡されたのは見覚えのあるあの刀。
姫鶴一文字を模した懐刀だった。
(出た!こういう時は何て言えばいいのかな、ありがとう?嬉しいです?物が物だけに複雑なんだけど…)
『無くさない様、大事にしますね』
(他に言葉が浮かばない。これで良かったかな)
少し離れた場所にいる織田軍の皆には見られない様、刀をそっと懐にしまった。