第14章 春日山
『姫、バタバタしてすまないがこの着物に着替えてくれないか?』
『着替えですか?』
『ああ、今着ているのは北条が用意した着物だろ?悪趣味だ、今すぐこの手で脱がしてやりたい。今持ってきた着物は俺が選んだ。君に似合うはずだよ』
そう言って目を見つめながら着物を手渡す。
(やっぱり信玄様はさらりと口説いてくるタイプだ。気を付けよう)
『似合うかどうかわかりませんが、ありがとうございます』
着物を受けとると、以前にも同じ様な事があったのを思い出す。
最初は安土城で次は小田原城、城に着いたら着物に着替えた。
(二度ある事は三度あるって言うけどホントだなぁ)
なかなか部屋を出て行かない信玄の背中を両手で押して退室させ、受け取った着物に手を通す。
(武将クラスにもなるとやっぱり皆、選ぶ着物の質もセンスもいいんだなぁ…って、感心してる場合じゃなかった!待たせると覗いてきそうだから急ごう)
『信玄様、着替えが終わりました』
廊下で待っている信玄に声をかける。
『うん、想像以上に良く似合ってる。綺麗だよ。今からこの城の中を城主の謙信に代わって案内しよう、おいで』
甘い声でそう言われて部屋を出た後、信玄の後ろ姿を追う様に歩き始めた。