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連れ立って歩く 其の五 木の葉編 ー干柿鬼鮫ー

第5章 藻裾の先行き



藻裾は鼻を鳴らして腰に手をあてた。

「はぁ、アタシと牡蠣殻さんのことなんざ、アンタに関係ねぇこったろ。お余計な世話だよ」

「慕う相手が思うような人間じゃないなんてことは珍しくもないことよ」

意味深に言う大蛇丸に藻裾の眉が跳ね上がる。

「人を慕うことが相手の負担になるなんて、あなたには思いもつかないでしょう」

「は?何の話だよ」

「アンタは自分の行き先を見定めたくてここに来て、牡蠣殻は逃げるためにここに来た」

「何が言いてぇんだ」

「同じ磯の人間だってのに、全然違うのねえ」

「当たり前だ。在所が同じだからって皆右倣えで同じ人間になるもんかよ。気持ち悪ィ」

「ふん?まあその通りね。思い通りに同じ人間になってくれたら都合いいんだけれどねぇ」

「………」

それは草の薬を使えば出来ることだ。草の薬は容易に人を蝕むがそれを手足に使おうと思えば投与に神経を使わざるを得ない。専門の者があたって投薬された者を一人一人を管理するのは容易なことではない。草や磯、薬に特化した里でもなければ難しいだろう。
大体大蛇丸はそれがなくても人を思うように動かす術を幾つか持っている筈だ。

藻裾の顔色を読んで大蛇丸が笑った。

「アタシは草の薬が欲しいわけじゃないのよ。薬自体は必要ないから。まあ、牡蠣殻に会ったら礼を言っておいて頂戴。約束のものは鬼鮫から受け取ったって」

「約束のもの?鮫のアニさんから?」

「詳しいことは牡蠣殻に聞きなさい。答えが貰えるかどうかは知らないけれど」

寒そうに首を竦めた大蛇丸が踵を返す。

「寒いわねえ。早く春にならないかしら。もうこの時期になると体中痛んで敵わないわぁ。幾ら体を入れ換えたところで歳は歳ってことなのかしら。あぁ、厭だ厭だ」

「………」

大蛇丸を見送った藻裾は、目を眇めて濡れた肩を払った。

当座は牡蠣殻に貼り付いておこう。

柳の目で笑う旧知の女を思って、藻裾は窓表に目を向けた。

危なっかしくて目放しならねぇ。やっぱりあの人ァ磯に囲っとかなきゃ駄目なんじゃねえのか…?

波平と磯を纏めているのが一番なのではないか。その手助けをする為ならば藻裾も暫く磯に戻ってもいい。

砂の風影の顔が頭を掠めた。会いたいな、と思って頭を振る。

先ずは木の葉に行く。

後のことは皆それからだ。













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