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連れ立って歩く 其の五 木の葉編 ー干柿鬼鮫ー

第6章 年の瀬、花屋の二階で



「恩返しに?」

「馬鹿、こんなん恩返しになるか」

差し出された手を取って、カンクロウは目を眇めた。薄い手は相変わらず乾いて傷痕だらけだったが、生傷はなく瘡蓋に覆われてもいない。顔を覗き込むと、牡蠣殻は手を引っ込めて体を引いた。

「何ですか、一体」

「顔色悪ィじゃん。大丈夫か」

「カンクロウさん。あなたの面倒見が良いのは悪いことじゃありませんが、あまり満遍なく頑張ると疲れちゃいますよ。大概にした方がいいと思いますがね?」

「喧しい。俺の血を貰って今のオメーがあるんじゃん。自分の血の先行きを心配して何が悪い。減らず口ばっか叩いてねぇでちっとは恩に着ろ、全く。大体オメーは人に心配かけんのも大概にしろ。周りが疲れんだろ」

「そんな心配して下さらなくても…」

「人に心配かけてそういうこと言うのは身勝手ってモンだ。うろちょろしてねぇでさっさと収まるとこに収まってくれよ、ホントによ」

肩の雪をはたき落としてカンクロウは舌打ちした。

「凄い雪ですよねえ」

カンクロウの頭巾から雪を払って、牡蠣殻が首を竦めた。

「年の瀬らしい良い天気です」

「…まぁよ。良いお年をな」

お返しに牡蠣殻の頭から雪を払ってやりながら、カンクロウは複雑な顔をする。

「何やかんやあっても最終的に収まりがよけりゃな。終わりよければ全てよしじゃん」

「何の話です?着きましたよ、いのさんの花屋さん」

「俺は頼まれただけだから。脅されたとも言う」

「何だ何だ。いよいよ何の話だ」

「山中も気の毒に」

「いやいやいやいや、ちょっとちょっと?」

「あのよ」

カンクロウが腰に手を当てて牡蠣殻に向き直った。

「何か困ったら砂に来いよな。チヨバアとかもそう言ってっかんな」

「ああ。ご隠居様方は息災でいらっしゃいますか?」

「元気な年寄りの心配はいいから早いとこ体を治せ。いいな?」

念押しするように上体を屈めて牡蠣殻の顔を覗き込み、カンクロウは溜め息を吐いた。

「よし。行くぞ」

「は?私も入るんですか?今日のところは花に用はありませんが」

「いいから来い」

背中を押しこくられて、牡蠣殻はつんのめりながらいのの花屋に入った。

「あ!牡蠣殻さん!い。いらっしゃい!」

小さなストーブの前に座っていたいのが、引き攣った顔に笑顔を浮かべて待ち構えていたように立ち上がる。
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