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ENCORE

第4章 Love Me Tender


ゆったりとした動きでパーカーを着込む彼をベッドで丸まり眺めるのは何度目だろう。薄暗い室内、浮かび上がる赤はまるで私の見えない血に塗れているようだ。

「泊まればいいのに」
「んー、朝イチでパチンコ行くんだよ。新台入替初日!」

嬉嬉として語るその顔は、私の大好きな笑顔。
瓜六つの兄弟と行くのだろう。その良く似た顔の誰かでも良いかななんて思った時期もあったのだけど、私はどうやら彼が良いらしい。
自由気ままで、紙飛行機の様にふらふらと空を漂う彼が良いらしい。

「たまには一緒に居たいの」

柄にもない言葉を吐き出して我に返る。反応がとても怖くて、シーツにくるまった。薄布一枚向こうで穏やかな声が私を撫でた。

「また今度な」

くぐもった温もりが私の前髪を撫でて、静かに重みが消える。堪らなく辛くて、それでもどうしようもなく胸が一杯になって目尻が濡れた。

「んじゃまた。寒くなってきたから早く服着ろよ」

人の気配が消えたホテルの一室。彼といつか一緒にこの部屋を後にする日は来るのだろうか。来ないだろうな。
彼をモノに出来るなんて、ハナから思っていない。それでも一時の優しさを求める自分がいる。小さな矛盾が幾重にも重なって、まるでこの恋心は幻で、だから鈍く煌めいている様に見えるのかもしれない。


泣き喚く歳でもない。それを受け止めてくれる誰かもこの部屋には居ない。情事の残り香を消してしまわぬように、そっと彼が脱がせた衣服を、自分で着た。

吐く白い息に混じらせて少しずつ、放出出来なかった想いを捨て歩く。
そうしてやっと捨て切った頃、疎らに車道を照らすライトを停めた。

静寂に包まれた街並みを横目に何を思おうか。

「お客さん、今日の月は大きいですね」

運転手の一言に視線を上げると、今日の出来事を全て見ていたよと言わんばかりの満月が私を見下ろし、見送っているではないか。

「…月、綺麗ですね」

気が付くと一筋の小さな小川が頬に出来た。
昨夜真っ赤に塗り直したネイルで満月引っ掻いた。
冷たい壁に阻まれて、小さく悲鳴をあげた。
まるで、この恋みたいだ、と大きく泣いた。
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