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ENCORE

第3章 midway


扉を叩く音がして、目が覚めた。時計を見ると電話を切ってから数時間が経っていた。泣き疲れて寝てしまったのだろう。

チャイムが私を呼ぶがもう深夜。怖さが勝つが鳴り止まないチャイムはただの近所迷惑になってしまう。
チェーンを掛けたまま、扉を開くとそこには鼻を真っ赤に染めた彼がいた。

「な、に、してんの」
「入れて」

財布ひとつ手に、私の部屋に入り込み、鈍い音を立てて床へと座った。
突然の来訪に戸惑い、言葉に困っていると彼が淡々と話し出す。

「静岡からここまで二時間ちょいだ」

静かに向かいへと腰を下ろして彼の言葉に耳を傾ける。
真っ赤な鼻は、きっと泣いていたのだろう。些細な事で別れを切り出した事を深く反省させられる赤だった。

「会えねェのはオレだって辛ェ。けど、たった二時間ダロ。まいかが寂しいっつんなら飛んで来てやんヨ」

目元をグイと拭い、真っ直ぐな瞳で彼がそう言った。そっと私の手を掴み、彼はさらに言う。

「まいかじゃねぇと意味ねェの。オレのドン底を知ってるまいかにデカくなったオレを見てほしいンだよ」

彼の下まつげに溜まる其れが、私にも伝染する。
ぐずぐずと二人で鼻を鳴らして、言葉を投げ合う。

「寂しかったの」
「ごめんネ」
「ずっと一緒にいたいの」
「オレも」
「邪魔したくなかったの」
「まいかなら邪魔じゃねェよ」
「まだ、待ってて良いの?」
「まだ待っててくれる?」

遠い遠いと嘆いた距離も、心を寄り添わせてしまえば気にならないようになるのだろうか。
泣き腫らした瞼さえ、愛おしさしか感じられなかった。

「すぐ飛んで来てやっからァ。別れるなんて言うなヨ」

次の日の昼、彼はそう言い残して帰って行った。
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