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【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】

第7章 アザミの家




 怖くなかったわけじゃない。むしろ実際に人に危害を加える姿を、その圧倒的な力を目の当たりにして、胸に抱える不安や恐怖は一回り大きくなった。それでも付いてきてしまったのは、きっとそれ以上に知りたかったからだ。それが期待していたものにしろそうでないにしろ、真実はもうすぐそこにある。今さら怖じ気づいて逃げるという選択肢は出久の中にはなかった。


 少なくとも、こうして翔が自分と真摯に向き合ってくれている間は。たとえそれが自分を騙す演技なのかも知れなくても。


 信じなければ、扉に手をかけることもできない。怖くても信じるのだ。翔を追ってくる前に、そう覚悟を決めたのだから。出久は気持ちも新たに、叩きのめした敵たちを交番の前に置きにいった翔を待って、彼と彼の奇妙な仲間と共に路地裏を抜けた。


「自己紹介が遅れたね。私は南野桜。桜って呼んで」


 路地裏を抜ける道中、金髪の少女が出久の前を歩きながら自己紹介してきた。鞭を華麗に操ったあの魔法のような指を自身に差し向け、にこりと笑う。


「個性は物体操作。ものにふれると浮かせたり、自由に動かすことができる。ただあまり複雑な動作をするものとなると難しいかな。さっきの羽とか鞭みたいな、簡単な構造のものは操作が楽だし、たくさん動かせる。人間や動物は操作できないけど、髪の毛、爪、もげた腕とか足とかは、本体から離れてある程度時間が経っていれば操れる。植物もある程度枯れていれば使える」


 少女――もとい桜は、淀みない調子で自分の個性の説明をした。まるで今まで何度も同じ説明を繰り返しているかのような、実に要領を得た説明だった。


「こっちは南野翼。恥ずかしながら、私の双子の兄だよ。個性は動物変化」


 桜の指がひらりと動き、今度は左斜め前方に差し向けられる。彼女の指にならって視線を動かすと、路地の端に立ち並ぶ塀を出久たちと同じ方向に歩く一匹の猫が目に止まった。金色の毛並みが見事な茶トラの猫だ。猫はちらりと出久たちの方を振り返ると、またすましたように前に向き直った。

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