第1章 おにぎり
「お疲れ様でした」
バイトが終わって、家に向かってのんびり帰ろうとした時のこと。
「あや」
「え、紅郎くん?」
久しぶりに聞く声に振り向くと、ちょうど街灯の下に紅郎くんがいたものだから思わず駆け寄った。制服じゃなくて私服なのは家に一旦帰ったのかな。
「どうしたの? 珍しいね、ここで会うなんて」
「今日は待ってたからな」
「え、待ってたって…どのくらい?」
「ほんの少しだけな」
苦笑いで言う紅郎くんは、きっと少しじゃなくて結構ここで待っていたんじゃないかと思うと、知らなかったとはいえなんだか申し訳なかった。
「連絡くれたら、早上がりさせてもらったのに…」
「いや、今回は俺の勝手だからな。そんな融通してもらうわけにはいかねぇよ」
「でも…」
「そうそう、これ返すな」
「え、あれ、なんで?」
紅郎くんに渡されたのは今朝菜子ちゃんに渡したはずのランチバックだった。
「今日、用事で弓道場に行ったら深風に渡されてな。ありがとな、久々にあやの飯食えて嬉しかった」
「え、なんで、菜子ちゃん弓道部…」
「ん? 言っとくが、弓道場はアイドル科の校舎にしかねぇぞ?」
「え、嘘…私てっきり普通科のどこかにあるかと…」
「まあ、普通科からアイドル科の校舎に用事で出入りする奴は限られてるからな。勘違いしても無理ねぇよ」
まさか菜子ちゃんから紅郎くんに渡るだなんて思いもしなかった。あれ、でも、私、誰にも紅郎くんとお付き合いしてること言ってないんだけど、なんで菜子ちゃん紅郎くんに渡したの…?