第1章 太陽はまだのぼらない |一人語り
……ひどい戦いだった。一撃で倒さない。何度も何度も急所を外し、失血死の手前で今度は腕、脚、最後は胴体を破裂させる。自分と仲間の体が失われるのを認識させながら殺していった。残酷だとか、そんな次元はとうに超えていた。戦いというより一方的な、ただの虐殺だ。そういえばここ数年したことがなかった。今回は、命令であったから、仕方がなかったけれど。相手も相当な使い手であったろうに。情けない叫び声を上げて文字通り散っていった敵を思い出す。ぞくり、と黒い翳が背中を這った。額を流れる汗が、浴びせかけられた赤の生ぬるさを連想させる。まるで何か恐ろしい物を振り払うかのように、ゴシゴシと袖口で拭った。寝巻きが妙に重い。まだあの霧の中にいるような気がした。
朝の修行にでも行こうか。銭湯で汗を流して、朝食を外でとるのも良いかもしれない。そういえば久しくあの甘味処には顔を出していない。とにかく思考の外に置いてしまいたかった。そうすれば、そのうち自然と忘れてしまうだろう。例え覚えていても、夜になればまた新しい記憶に塗り変えられるだけだ。のろのろと服をひっぱり出し動きやすい格好に着替えた。外に出れば爽やかな風が吹き抜けて行った。まだ太陽は昇らない。