第8章 クリスマスを君と(アレク)
今日はクリスマスイブ。
街中が賑やかで誰もが楽しそうだ。
「今日忙しいね」
「おー。クリスマスイブだからな」
アレクとカウンターで紅茶を淹れながら会話する。
シーナはチラッと隣を見ると、すぐに視線をポットに戻す。
今日は何度もアレクの方を伺ってばかりでそわそわしっぱなしだ。
(どうしよう…なかなかアレクに言い出せないよ)
シーナはひとつため息をつく。
今夜、近くの公園でキャンドルを道沿いに灯すというイベントがあるらしい。
去年も行われてとても綺麗だったと何日か前にお客様から教えてもらったのだ。
シーナはアレクを誘いたかったが、忙しくてなかなか言えずにいる。
アレクはいつものように優雅な身のこなしでお客様にサーブし、ふとカウンターを見ると
「ぼやぼやするな」と視線を送ってきた。
(うう…ますます言いにくいよ)
***
最後のお客様が帰ったのは閉店時間を1時間近くオーバーしていた。
ブルーベルは大繁盛。
ドーナツも、パイも、スコーンも全部売り切れてしまいみんなクタクタになりながら片付けを終える。
(疲れた…!)
シーナはその場で軽く背伸びをする。
(そしてやっぱり言えなかった…今日は真っ直ぐ帰ろ……)
シーナはもうずっと前からアレクに恋心を抱いていた。
クリスマスイブだから少しでも一緒にいれたら、なんて考えていたのに
結局勇気が出せず1日が終わってしまう。
エプロンを外して荷物を整えていると、ふいに名前を呼ばれた。
「おい、シーナ。ちょっと付き合え」
アレクはシーナのバッグを右手に持つと、左手でシーナの手を取る。
「ッ………!アレク?」
「なんか言いたいことがあんだろ?寄り道して帰るぞ」