第10章 まばたき●
ずっしりと重い大学の卒業アルバム。
厚い皮の表紙を開く。
個人写真のページを眺め、差出人の同期の名前を探した。
相変わらずの無表情な私の隣に、同期の写真はあった。
にこやかに微笑む黒髪の女性。
もちろん卒業してから一度も会った事は無い。
あまり接点はなかったように思っていたが、こんな私の事を覚えていてくれたという事が単純に嬉しかった。
「…行ってみようかな。」
そうぼんやりと呟いた時だった。
リビングから高杉さんの笑い声が聞こえてきた。
私は急いで卒業アルバムを段ボールの中へとしまう。
その瞬間、段ボールの中に入ったままとなっていた写真立てが目に入った。
それは以前、アパートの部屋の出窓に飾ってあった母との写真。
忙しさにかまけて後回しになっていたが、きちんと荷物の整理をしなければと、段ボールの中から写真立てを取り出した。
埃を払い、棚の上へと写真を飾る。
故郷の桜の木の下、二人で並んだ写真。
ふと、母にも早く引っ越しの知らせをしなければと思った。