第7章 月白
「…もしもし?影山くん…?」
「あっ、悪い。こんな時間に。」
そちらから掛けてきたくせに、焦った感じの影山君の声が聞こえる。
そういえば電話で影山くんと話すのは初めてだ。
「ううん。まだ9時だし。どうかした?」
こんな時間なんて言われたから、一体今は何時なんだろうと部屋の時計を確認する。
「本当はメッセージ送ろうと思ってて…間違って通話ボタン押しちゃったんだけど…途中で切ったら、負けたみたいで悔しいだろ。。。」
なんだそれ。
無駄に影山くんらしい言い訳に笑ってしまう。
それにしても、電話越しの影山くんの声が、いつもより距離の近い所から聞こえてくる気がして、勝手に恥ずかしくなってしまう。
何も言えずにいると、影山くんが低めの声で続ける。
「なぁ…。皐月、泣いてるのか?」
「え…?」
「いつもの声じゃない。…月島と何かあったのか?」
「あ…の。えっと…。」
影山くんには全て知られているとしても、
今の今までセックスをしてた事を知らせる必要はないだろう。
「今から行ってもいいか?」
私が次の言葉を繋げずにいると、影山くんがそう言った。
「え…なんで?」
「俺がお前に1人で泣いて欲しくないから。近くまで行ったら、また連絡する。」
影山くんの言葉は、こじれてしまった私の心をあざ笑うかのように真っ直ぐ届く。
何の返事もしていないのに、電話は既に[プーップーッ]と無機質に終話を伝えていた。