Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
「そこまでだ!」
冷たい空間に突然響き渡る低音の声。それが聞こえた直後、オドは今まさにエミリ目掛けて振り下ろそうとした手を止めた。
「……チッ、ようやく来たか」
手と片膝を地面につきながら、リヴァイは疲れ混じりに吐き出した。そこには、少しの安堵も含まれている。
声の正体は、憲兵団本部へと向かったエルヴィン。彼の隣には、銃を肩にかけた憲兵団師団長のナイル・ドークが、部下を引き連れて立っていた。
「ヤツを拘束しろ!!」
ナイルの指示に従って彼と同じように銃を手にした憲兵たちが、それを構えてオドを取り囲む。
抵抗すれば殺される。それを意味する憲兵たちの行動にオドは、ナイフを地面へ落とし手を挙げた。
「……ハハッ、これが完敗ってやつかな」
「喋るな! それ以上口を開くようなら撃つぞ!!」
不敵な笑みを乗せるオドの発言に、憲兵の一人が忠告する。しかし、オドは余裕の表情を携えたままだ。
「殺せはしないさ。なんせ、僕から聞きたいことが山ほどあるだろうからね。ここで僕が死ねば、事情聴取が成り立たなくなるだろう?」
ニコリと微笑んで見せるそれは、相変わらず見る度に虫唾が走る。
的を射た答えに憲兵たちは、苦虫を噛み潰したような顔を見せた。
「まあ、別にここで僕が自害してもいいんだけどねぇ。それで、晴れてこの事件は謎のまま終わるだろう?
……でも、見てみたいんだよねぇ。君が底まで朽ち果てる姿を、さ」
未だにルルを抱き締めたまま地面に座り込んでいるエミリへ、追い討ちをかけるように言葉を放つ。
そこには、憎しみや報復の念が込められているようにも感じるが、それらとはまた違った何かが秘められているようにも思えた。
「そういう事だから、今は大人しく捕まっておいてあげるよ」
切断されていない手の方だけに手錠を嵌められ、そんな捨て台詞を残し、オドは憲兵に連行された。
最後の最後まで嫌味ったらしいヤツだったと、リヴァイは再び舌打ちを鳴らす。
本当はこの手で殺してやりたいくらいだ。しかし、彼のような人間に構っている暇があるのなら、エミリに寄り添ってやりたい。
オドの姿が部屋から消えたことを確認したリヴァイは、エミリのそばへ向かうため、未だに言うことの聞かない体に力を入れた。