第13章 説得と決意
「だから、戸籍なんかただの飾りだ。どれだけ足掻こうと、両親は両親。兄さんは兄さんなんだよ。」
そう言う彼の瞳は私がいつも見ている、正直な瞳だった。
「…そう、だったんだ。でも、私なんかのためにそんなことさせられないよ。」
それでも私は彼を止める。
だって、あんなに心からそう思っているのにいくら戸籍だけだといっても引き離すようなことしたくない。
「…じゃあ、俺たちが由架のお母さんを説得を試みたとしよう。それでも承諾してもらえなかったとき、俺たちは離れなきゃいけなくなる。そんなことになっても、お前はいいのか?」
彼はそれでもその考えを変えようとはしなかった。
「…それはよくないけど。」
「本来はこの選択肢はない。けど俺たちにはこの選択肢が与えられてる。それならその選択肢を使えばいいんじゃないのか。」
彼がどれだけ自分を想ってくれているのかがわかるはずなのに、それは嬉しくなかった。
だってそれは彼が犠牲になることなのだから。
私はそうなったとしても今まで通りの生活を送る。
でも、彼は?
確かに、今まで通りかもしれない。
けれど形態は少しでも変わってきてしまう。
そんなことになるとわかっていて止めないわけがない。
「…ギリギリまで考えさせて。」
「え?」
「やっぱり私は止めないでいることはできない。だから、ギリギリまで、やれること全部やってからそうさせて。」
これが多分、今の私にできる、最大限だから。
やれることはやってあげたい。
自分のやれることは全部やりたい。
「わかったよ。…ありがとう。」
そういった彼の言葉は少しだけ涙声だった。