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Diable Patron

第11章 部下の憂鬱


そして裕が電話に出ている間、新山くんは私に言う。



「このあと、帰るようなら僕と飲みに行きませんか?」




すると裕の顔が少しだけ歪む。




するとその直後、裕の言葉とは思えない言葉が聞こえてきた。





「すみません、今日は外せない用事がありまして間に合うようなら明日でも大丈夫でしょうか?」




自分の耳を疑った。




あの仕事人間の裕が、仕事よりプライベートを優先したのだ。


その姿を見て、私は新山くんからの誘いの答えを出すのに戸惑ってしまう。


そしてしばらくしてから彼は電話を切った。




「悪いが、今日はやめておいてくれ。今日は俺が先約だ。」




彼はそう言うと私の手を引いて駐車場へと向かった。




その足取りは早く、途中で足がついていかなけなってしまうほどだった。





「裕…少し止まって…足がついていかない…」





私がそう少し息を切らしながら言うと彼はハッとして足を止めた。




「悪い…回りが見えてなかった…」




そういう彼は少し、思い詰めた表情をしていた。




「あの、さ…さっき、新山くんと会ったとき何か言われたの…?」




私は恐る恐る彼に聞く。




「何もないよ…」




彼はそういうものの何もないようには見えなかった。




少し休憩してから私たちはまた無言で歩き、裕の車へと乗り込む。




すると裕は私のことをそっと抱き寄せた。





「…どんな俺でも、俺を見捨てないでいてくれるか。」





そう私に聞く彼に私は



「うん、見捨てないよ。」



と、そう返す。




顔は抱き締められていて見えないけれど何となく表情の予測はつく。




「…どんな俺でも、好きでいてくれるか…」




そういう彼の声は涙声で、彼が泣いていることに気づいてしまう。



けれど弱味を見せたくないのだろう。




だから私は気づかないフリをする。



「うん、ずっと大好きだよ。」
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