愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第4章 落花流水
和也said
馬車で送る・・
その言葉通り、俺は馬車に乗せられ、松本の屋敷へと向かう。
車輪が石を咬む度大きく揺れる馬車に、乗り心地は余り良いとは思えないけど、流れる景色を見ているのは、とても面白かった。
走馬灯ってこんな感じなんだろうか・・
でも、松本の屋敷が近付くにつれ、俺の浮かれた気分も少しずつ鎮み始めた頃、それまで微笑ましくも俺を見ていた相葉雅紀が、一瞬真剣な表情(かお)をする。
「私は君が何を見て笑い、何を楽しいと思うのか知りたいのだよ。もっと話をして君のことを教えてはくれまいか」
それは、俺が傍にいてもいい・・ってことなの?
もしかしてこの人も俺と同じ気持ちなんだろうか…
だとしたら、それはとても嬉しいことだけれど、今すぐにでもこの人の胸に飛び込み、思いの丈を伝えたい。
でも今は駄目だ。
俺はまだ智さんの居所を掴んでいない。
松本の屋敷にいることは確かなのに‥
智さんを見つけたら‥
その時は俺‥
じっと俺を見つめる真剣な眼差しに、小さな誓いを立てる。
そして馬車が停まり、従者が扉を開くと同時に、俺は馬車から飛び降りると、いつの間にか俺の心にすっかり住み着いてしまった彼の人(かのひと)に向かって、出来る限りの笑顔を向け、
「旦那様!ありがとうございます!」
深々と頭を下げると、後ろを振り返ることなく、草履履きの足で駆けだした。
屋敷に戻ると、極力物音を立てないよう、使用人部屋へと向かった。
裾の擦り切れた袴を脱ぎ、絣の着物を脱ぐと、誂えられた使用人用の着物に着替えた。
そして井戸水で湿らせてきた手拭いで顔を一拭きすると、籠った空気を入れ替えるために、ひびの入った硝子窓を開け放った。
吹き込む風は冷たいけれど、何故だか俺の心はとても暖かだった。
あの人が…、雅紀さんがここにいるからだろうか…
俺はそっと自分の胸に両手を宛て、そっと瞼を閉じた。
見つけ出すから‥
必ず智さんを見つけ出して貴方の元へ‥
それまでは、心の中でだけ呼んでもいいですか?
雅紀さん、と‥
完