愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
彷徨う瞳で、更なる試練を与えるような智の言葉を聞いていた翔君は、葛藤に唇を噛み俯く。
成り行きを見守っていた和也は不安に堪りかねて、私の脇に少しだけ身体を寄せた。
「…待ってる。僕、翔君のこと…待ってるから」
智は俯いたままの恋人に、共に生きて生きたいんだと、懸命に願いを伝える。
「…さとし…」
「僕たちも変わらなきゃ…。いつまでも守られてる子供のままじゃいられない」
それは守ってやらねばと思っていた幼い存在の、巣立ちの瞬間だった。
心を決めたように顔を上げた翔君は、穏やかさと強さを得た恋人を強く抱き寄せる。
「智…、少し、時間がかかるかも…しれない」
「うん…わかってる」
「それでも…待っててくれる…?」
「待ってる…、だって僕たちは離ればなれになる訳じゃないもの。こんな風に触れあうことだってできるんだから…」
「ありがとう…智」
互いの気持ちを確かめあうために言葉を紡ぐ二人を見ながら、私は和也の手をそっと握った。
「よかった…」
涙声で喜びを溢れさせた彼も、漸く…哀しい連鎖から解き放たれたと感じているようだった。
私は年若い彼らを、誰一人として傷付けることなく、幸せを得ることばかりを考えていた。
でも傷ついても尚、立ち上がろうとする健気な姿は、彼らを一回りもふた回りも大きく見せていた。
これでよかったのかもしれない…
受けた傷が深かった分、彼らは強く優しくなれたのだろうと思った。
やがて固く抱き締めあっていた二人は口付けを交わし離れると、共に手を取り立ち上がる。
「雅紀さん、しばらくの間、智のこと頼みます」
智と並び頭を下げた翔君の瞳には、もう迷いはなかった。
「わかった。智のことは何も心配しなくていい。その代わり、弟として松本のことをしっかりと支えてやらねばな」
一番深手を負ったのは他でもない…腹心の友
そのことが気掛かりでならなかった。