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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第5章 一栄一辱


和也side


風邪気味なのか、具合が悪そうなのに、俺のことばかりを気遣ってくれるなんて‥


身体が冷えてしまうのに、俺の手を懐に入れてくれて、それでも尚温かだと言うこの人は‥


やっぱりあの男とは違う。


なのにこの人はその優しさすら自分の我儘だと‥


その優しさに甘えたくて‥

俺はそっと抱き寄せられた熱い胸に顔を埋めた。


「やっぱりお熱があるようですね。とても熱い‥」


それに心なしか鼓動も早いような気が‥

「そうかな‥?だとしたらそれは、君を胸に抱いているせいなのかもしれないね?」


俺の‥せい‥?


「君を見ているとね、私の胸はどうしてだか熱くなってしまうんだよ、不思議なことにね」


一緒だ‥雅紀さんのことを考えると、俺の胸も熱くなるから‥

現に今だって‥


「そう言えば、松本から荷物を言付かって来たそうだが‥」

「あ、そうでした‥」


あまりの心地よさに、肝心なことを忘れるところだった。


俺は脇に置いてあった風呂敷包みを取り上げると、それを雅紀さんの前に差し出した。


「これは‥?」

「さあ‥。私は潤坊ちゃんから、旦那様にこれを渡すようにって言付かって来ただけですから、中の物が何かは‥」

「そうか‥そうだな。済まなかったね、私のために君に足労をかけてしまって‥」

「いいえ、とんでもございません」

これを口実に会いに来ることが出来たのだから‥


「さて、包みの中はなんだろうね?」

雅紀さんがゆっくりと結び目を解いていく。

それを俺はそのすぐ横でずっと見つめていた。

そして全ての結び目が解かれ、はらりと風呂敷を捲った瞬間、雅紀さんの手がまるで固まってしまったかのように動かなくなった。


「旦那‥様‥?どうかされたのですか?」

俺が問いかけても、雅紀さんは目を見開いたまま微動だにせず‥


「旦那様?」

「これは‥私があの子に誂えた物だ。あの子のために生地を選び、あの子のために‥。それがどうして‥」

「あの子‥と言うのは、旦那様が可愛がっておられたという‥?」

「ああ、そうだ‥。智だ‥これは智の‥‥」


見開いた瞳から、大粒の涙が一つ、ぽつりと包みの上に無造作に丸められた布の上に落ちた。


それは、紛れもなく、あの日智さんが身に着けていた藍天鵞絨(あいびろうど)の背広だった。


ー完ー
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