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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第2章 暗送秋波


雅紀side


昼食を終えた私たちはそれぞれ自室に引き取り、午後のひとときを過ごしていた。

読み物に耽ることもあれば、西洋の楽器が奏でる音色に心を委ねることも‥


窓辺から見下ろす庭は手入れがゆき届いているとはいえ、花の咲き乱れる季節も過ぎ、吹く風に僅かに残った木の葉が揺れていた。

その風情に心許なさを感じると、智のことを思い浮かべて。



‥‥微睡みの中にいるだろうか‥それとも‥



そう思うと顔を見ずにはいられなくなり、部屋を後にした。


屋敷から少し離れた静かな場所の離れにある智の部屋。

物音を立てないように古めかしい襖を引き、身体をその中に滑り込ませる。


少し冷んやりとした静かな部屋の中に視線を一巡させると、新調したばかりの文机に向かっている後ろ姿が見えた。



勉強をしているのか‥

‥熱心なことだ‥邪魔はすまい。



智の学びを妨げるのは本意ではないし、そのまま静かに立ち去ろうとすると、何やら物憂げな溜息が聞こえてきて。


「何をしているんだい? さっきから溜息ばかり吐いて…」

愛おしい存在を煩わせる憂いを取り去ってあげたくて近づく私に、君が僅かに身体を震わせたのを見逃さなかった。


そして引き出しの中に仕舞われたものを‥


‥‥何を‥隠したというのだ‥。


胸の奥を針で突かれたような痛みを覚えながら、愛おしい背中を包み込む。


君は‥私の全てだというのに。


私の胸の痛みなど知らずに微笑む君の小さな唇を塞ぎながら、その痛みの正体を問いつめてしまいたくなった。


私への愛を囁くその唇は‥恐らく真実を語るまい。

君は自分の名ですら話してくれなかった。



あの日大事そうに抱えていた本に、美しい女文字で書かれていた名で、私は君を智と呼んでいるのだから。


自分の本性を語ってはくれないもどかしさを埋めるように、また‥君を求めてしまう。


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