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第18章 おひとついかが/億泰


「虹村くん、吉備団子いるかしら?」

由花子が教室でちいさな箱を見せてきたとき、おれは、ただ怪訝な顔をするほかなかった。



「はぁ? きびだんごだと」
「そうよ。うちに岡山の知りあいがいてね、もらったから、配っているの」
由花子は見るからに高価そうな菓子の箱を開けて、ちいさな包みの並んだ中身を見せる。


「ふん、あのきびだんごが実在したとはな、正直驚いたぜ」
「?」

「だが」ツンと、おれは顔を背けた。そのままじろりと相手を見下ろす。
「おれはいらねぇな」


「あらそう…それなら女性名さんと山分けしてしまうわ。康一くんにはもう渡したから。女性名さん、ちょっと」


声をかけられ、由花子の手もとを見ると、おなじクラスの女性名はすぐに寄って来てしまった。
「由花子さんそれなあに」

「岡山の吉備団子なの。いっしょに食べましょ」
「吉備団子!羽二重の高いお餅でしょ」
「そうよ。よくしってるのね」
「亀友の特産品コーナーで見たことあるもん!いただきま…」

「手を引っ込めな女性名ッ!」


箱の中身に手を伸ばしかけた女性名はびくりと跳ね、動きを止めた。





「てめー由花子からの食いもんをもらっちまうのかよ…きびだんごなんか食ったらどっか連行されちまうだろーがッ!!」

すると女性名は、おれの顔をすなおに見上げて、ぽつりといった。

「これ、ただのお土産よ虹村くん、食べてしまっても冒険とかそういうのはないのよ」
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