第14章 記憶の亡霊/間田
暗くなった街に、赤色灯とサイレンが遠ざかる。リビングには、パジャマのシャツだけを羽織った裸のサーフィスが佇んでいた。
窓から救急車を眺めていたようだった。
おれは部屋にもどると、サーフィスのとなりで、微かなサイレンを聞き、なにをいったらいいものか、ただ口ごもるほかなかなった。おれは、こいつの口からなにがあったのか聞きたくて、とっさにスタンドを出したのだろうか。
それともおれは、たんに、女性名に伝えたかったのかもしれないし、そうでないかもしれない。
「ねえ、パンツくらい履いてよ」
やっと出たのはそんなひとことだった。
「…いや。やっぱりいい。いま、なにをいっても、あんたを責めてるみたいになっちゃうな。おれは…たださ」
おれは背伸びし、そっと、サーフィスの額とおれの額とを、くっつけてみる。
「…おでこタッチ」
そうつぶやいた彼女は『パーマン』を全巻持っている。巻数順ではないものの、いまもあるべき本棚にきちんと並んで、P形の半濁点の目をきょろりとさせているのだ。
「なにかわかった? わたしの記憶だとかが」
「ううん……ただ、おれは女性名のことがすきなんだ。そのほかには、なにもない」
女性名の過去を訊くことも、なにをしようとしたのか確かめることも、結局、彼女をかってに評価しようという策略にすぎない。
信じてくれても、信じてくれなくてもいい。おれがあんたをすきなんだってこと以上に、しるべきことはないんだとおもう――――おれは病院の女性名をおもって、消え入るようにそういった。病床に眠るあいつの夢に登場したいと、願いながら。