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JOGIOショート

第13章 つまりは噎せるほど憎たらしい/ 呪いのデーボ


マンハッタンはまさに嵐のあとの、静かな、凍てついた大気の底にあった。仄暗い半地下に、ぽっかりとスケートリンクは浮かび上がる。だれも滑っていないが、おなじ空間には、隙間ない装飾に埋もれたクリスマスツリーが輝いていた。

頂上の星は巨大なスワロフスキーだ。明々とした星は、聖書の古い預言どおりの土地を示して西の空に輝き、三博士を聖なる嬰児に導いた。

今年もその夜を待って、街は特別な雰囲気を漂わせている。
触って、手に取れるような雰囲気だ。天使がたくさん飛び交っていて、その翼に、指が触れてしまいそうな。

ちらりと、晴れた空に翼が光った――――ビル風に巻き上げられ、散り散りになった粉雪が舞う。



「静かだな。朝とはいえ、貸し切りか」

おれと女性名は、リンクにただふたり、滑り出た。おれは黒いフェルトのコートを閃かせ、長い髪は結わずに、風に遊ばせるままにしている。冷気が頬を刺し、髪が顔に掛かるのも構わず、彼女に寄り添うように滑ってゆく。


ここで昨晩ツリーの点灯式があったことをだれもがしっている。

全米が注目するセレモニーをひと目見ようと、雑踏がこの界隈に集中していたのを、おれと女性名は、ホテルの窓から見ていた。
観光客や、出演する著名人のファン、マスコミなんかが通りに溢れ、一晩中喧騒はつづいたが、夜が明けると、街はこのとおり、朝を急ぐのみだった。








未明、女性名は裸のまま、するりと寝具を抜け出た。
窓から、点滅し、移動するさまざまな色の灯りが漏れてくる。

暗い部屋に浮き上がる、彼女の背中と腰の柔らかな曲線。白い肩。



「殺しの仕事が成功したあとは、あのリンクで遊ぼうとおもっていたの」


ぽつりと、そう呟いた女性名の背後には、ひとりのスーツすがたの男が転がっていた。偶然ふたりの殺し屋に狙われてしまった男は、彼が宿泊するはずのホテルで、女の殺し屋に殺害された。その現場へ、遅れておれが踏み込み、ふたりはばったりと、鉢合わせたのだった。
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