第4章 ピアノレッスン~シド~
~交渉~
「で?なんで俺がお前にピアノを教わる事になったのか、納得いくように説明しろ」
シドは、ピアノ室のソファーにドカリと座り、脚を組み、挑発的な眼差しで私を見上げる。
「えっとね………」
シドの鋭い視線に怯みながらも、ゆっくりと口を開く。
それは、数日前の事。
音楽の都と謳われている、ウィルツ王国へ視察に訪れた。
演奏会に、音楽の歴史に関する講演会への出席など、多忙ではあったけれど、どれも有意義なもので、とても勉強になった。
そして、その滞在期間中に、ある作曲家に出会った。
彼の名は、ヴォルフガング・アマデウス・モー・ツマラナイト。
ウィルツ王国が誇る、新進気鋭の作曲家だ。
彼、モー君の作曲した曲の演奏を聴いて、感銘を受けた。
心震える、あの感覚―――。
そんな彼から、ピアノを教わる機会を得た。
短い時間ではあったけれど、それは、あまりにも素晴らしく、貴重なものであった。
彼との時間は、まるで奇跡のようだった………。
帰国の前日。
彼は、もう一つの楽譜を手に、私の元へやって来た。
この曲に対となるもう一つの曲を書き、二重奏曲にしたのだ。
元々の曲は、力強く荒々しい、自信に満ちた曲調で、例えるならそれは、男性で。
新たに作曲したという曲は、優雅で華やかで、女性らしい柔らかさを思わせる曲調だ。
そして、それは、驚く事に、私とのレッスンからインスピレーションを受けて作曲したというのだ。