第3章 ピアノレッスン~イケヴァン・モーツァルト~ 情熱編
「本来なら、君がプリモを弾くべきところだけど………いける?」
頷き、モー君の呼吸に合わせ、私は鍵盤を鳴らす。
―――っ!
モー君が弾くプリモ………女性パートが、情熱的に響く。
清楚で可憐な少女。
愛する人に出会い、心を通わせ、やがて少女から大人の女性へ………。
後半に差し掛かるほどに、何度も交差する、手と手。
―――腕が、触れ合う。
そして………いつの間にか、吐息を感じられるほどに距離は縮まっていて―――。
目が合ったかと思うと………その途端、唇に温かさを感じる―――。
一瞬、触れるだけの、キス。
ピアノが、鳴り止む。
「モー………君?」
驚いたまま、目を瞬かせて、モー君を見つめ続ける。
モー君のすみれ色の瞳は、熱を持って揺らめいている。
「………国王様に頼まれたから、会う事にしただけ。正直、了承してからも、面倒な事引き受けたって、ずっと後悔してた。けど」
そこで言葉を切って、ゆっくりと、私の頬を両の手で包み込む。
「断らなくて、良かった」
「………!」
モー君の唇が、再び重なる。
今度は、長く、ゆっくりと―――。
目を閉じたまま、夢見心地でウットリとモー君を感じていると。
しばらくして、唇が離れ―――。
「ごめん。君は、どうしたい?」
急に伏し目がちで、そう問われる。
「………今さら、それはないよっ!………っ、なんで、そんなこと言うの?」
一転して、泣き出しそうになるのを堪えて問い返す。
「君に選択肢を与えてなかったから………」
唇を噛み締め、俯く。
と、そんな私の額に、優しいキスが落とされる。
「モー………」
私は、涙を浮かべた瞳で、モー君を見上げる。
「泣かせてごめん。自分でも、よくわからない。なんでだろう。君に惹かれて、仕方ない」
そう言うと、また、唇が重なる。
次第に、深くなっていく、口づけ。
それを、必死に受け止め―――。