第2章 ピアノレッスン~イケヴァン・モーツァルト~ 序章
都市のど真ん中にあると聞いていたので、都会の喧騒に埋もれてしまいそうな、規模的にはこじんまりとしている大学を想像していたのだけど………。
訪れた音大は、驚くほどの広さで、思わず目をみはる。
「うわ………広っ………」
緑豊かな広大な敷地に、楽器を手に行き交う学生達。
時折、風に乗って柔らかなメロディーが聞こえてくる。
「なーんか、こういうの、新鮮だね。学生気分っていうか。楽器でも持ってくればよかったかな。タンバリンとか」
ユーリもウキウキした口調でそう言う。
「ふふっ、そうだね」
私達は、学生の中に溶け込むかのように、自然とゆっくりで軽やかな足取りになり、校舎へと向かう。
受付の窓口で、ユーリが言葉を交わしているのをぼんやり眺めながら、次第に何とも言えない感情がジワジワと身体にやってくるのを感じる。
あの天才的な作曲家、モー君にもうすぐ会えるんだ―――。
そう思ったら、身体中の血液がすごい速さで流れ出しているようで、落ち着かなくなってしまった。
「マイン様、お待たせ。この廊下をまっすぐ行った、つきあたりの部屋だって………どうしたの?」
「あ、なんか、緊張しちゃって。私なんかと話してくれるのかなって不安になってきちゃった」
「うん、わかる、わかる。でも、マイン様なら大丈夫。いつもどおりに、ね」
ユーリの笑顔にほっとしながらも、高まる緊張を抑えようと胸に手をあて、深呼吸を繰り返す………。